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第12章
疑惑
(2)
| リンダに告げられたホテルに行き、フロントで尋ねた。 「シャープさまは、レストランでお待ちになっておられます。只今、ご案内申し上げます」 どうやら、言付けがしてあったらしい。 フロントが、女性の係員を呼んで案内を命じた。 四十五階にあるフランス料理の店で、女性に導かれて入って行くと、窓際の席から金髪の大男が立ち上がって美緒を迎えた。 その斜め横で、見覚えのある老婦人が笑顔を見せている。 更に、大男の隣には別の女性が腰を下ろしてニコニコしていた。 「ようこそ、いらっしゃいました。リンダの息子のピーター・シャープです」 流暢とは言えないが、割とはっきりした日本語で言って、ピーターが美緒の手を握った。 「お招き頂いて、ありがとうございます」 「再び、お会いできて嬉しいわ」 リンダが立ち上がって、軽く抱擁した。 「紹介します。妻のメアリーです」 「義母がお世話になり、ありがとうございました」 にこやかに礼を言うメアリーは、オーストラリア人である筈なのに綺麗なキングスイングリッシュである。 「妻は、スコットランドの出身なんです」 と、紹介してくれた。 「奥さま、お会いできて嬉しいです」 美緒が腰を下ろすのを待って、ピーターも席に座り、ウェイターを呼んで予め注文していた料理を運ぶように指示した。 「あたしのボスもスコットランド出身なんです」 リンダに言うと、 「スコットランドのどちらですか?」 「エディンバラです」 「あら、うちはグラスゴーなんです。お近くですのね」 そう言われても、美緒には位置関係がよくわからない。 「エディンバラは海に面していますが、グラスゴーはそこから西へ行ったところなんです」 「スコットランド最大の都市だわね」 リンダが言う。 「でも、以前は百万人くらいいたんですけど、いまは人口も六十万人を切っています。東京の五パーセント程度で、エディンバラより少し多いくらいの田舎ですわ」 窓の外に、明かりに輝く東京タワーが間近に見えるのを見ながらリンダは苦笑した。 しかし、人口が多いだけが都会でもなかろうと美緒は思った。 「前のブラウン首相の出身地ですよ。昔の有名人なら、経済学者のアダム・スミスかな」 その二人の名前なら知っている。 ピーターの言葉に美緒が頷いた。 初めて会ったのに会話が弾み、美緒も緊張することなくとけ込むことができた。 料理が運ばれてきて、それを食しながら更に話は弾んだ。 ピーターが、それとなく気を遣ってくれていることも美緒にはよくわかった。 「東京見物はいかがでしたか」 と、リンダに尋ねた。 「いろいろと楽しませて頂きましたよ。浅草へも秋葉原へも出かけました。ここや新宿のように近代的なビルが建ち並ぶところがあるかと思うと、浅草のように昔のものが大事にされているところもあって感心しました。オーストラリアなんて昔のものはありませんから。秋葉原の若い人たちにはびっくりしましたけどね。ただ、どこに行っても大勢の人がいるのには驚きました」 「お疲れになりませんでしたか」 「珍しいものばかりで、疲れている暇などありませんよ と、リンダが笑う。 「疲れるどころか、明日はディズニーランドへ連れて行けと言われていますよ」 「あたしも楽しみにしていますわ」 メアリーも、子供のように目を輝かせている。 「ミスター・シャープではありませんか」 突然、声をかけて男が近づいてきた。 ダブルのスーツを着込んで、金縁のメガネをかけた初老の男である。 若い男性が付き添っている。 「おお、草津さん」 ピーターが立ち上がって草津という男と握手をした。 「妙なところでお目にかかりましたな。今日は東京見物ですか」 「母親にせがまれましてね」 そう言って、ピーターはリンダを紹介した。 メアリーは前から知っているらしく、ちょっと会釈を返しただけである。 「また、北海道でお会いしましょう」 草津は、そそくさと連れの男と一緒に去って行った。 「北海道で事業を行うのに世話になった国会議員ですよ。ご存知ですか」 「いえ」 ピーターに説明されたが、もちろん美緒はその顔を知らなかった。 |