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第12章
疑惑
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| 春日居が言ったことが気になって、草津という代議士のことをネットで調べてみた。 簡単な紹介記事が載っていた。 それによると、草津友幸は今年でちょうど六十歳になるらしい。 北海道の函館市出身で、有名私立大学の法学部を卒業の後、中央紙のひとつに入社し、三十歳の時に政治部に配属されて与党を担当している。 その時に、名越重史郎と懇意になって四十を前にして新聞社を退職し、名越の秘書となっている。 秘書を十年ほど務めて、四十九歳の時に北海道の選挙区で共生党の長老議員が引退したのを受けて立候補し初当選をしている。 この時も、名越の強力なバックアップがあったらしい。 一年前に開発省の副大臣に就任しているが、ネットではそれ以上のことはわからなかった。 政治部の記者が議員と懇意になって秘書を務め、後になって立候補するのは、特に保守系の政治家によくあるパターンである。 なかには、それを目指して新聞社に入る者さえいる。 本人のホームページを開いてみたが、内容は略歴紹介とほぼ同じで大した内容はなかった。 あとは、例によって地元のどこやらに橋を架けることに尽力したとか、どこそこのトンネルは大いに感謝されているなどという自慢話である。 そのなかに、倶知安町を外国のリゾート事業を誘致し、町の発展に大いに貢献したというのがあった。 これが、ピーター・シャープが知り合ったきっかけであろう。 いずれにしても、名越重史郎との関係の深さだけはわかったが、今回の件に絡んでいるようなことは何も見えてこなかった。 「やはり、それだけのことか」 と、美緒はネットの画面を閉じた。 その日の午後になってクラントンに呼ばれた。 恐らく、営業部長辺りから申し入れがあったに違いないと覚悟を決めて三十五回の部長室まで上がって行った。 秘書の北島麗子が、 「どう? 彼氏の様子は」 と訊いてきた。 「早く出勤させてくれって焦れてるわ」 「部長命令で休めるなんて、滅多にあることじゃないのにね」 笑いながら部長室へ案内してくれる。 広いデスクの上には山積みにされた書類があり、ワイシャツの腕をまくって格闘していたクラントンがいた。 「おお、来たか」 ソファに座るように指示をして、シャツの腕まくりを下ろしながら立ち上がった。 麗子にコーヒーを頼んでから自分もソファに腰を下ろす。 「どうかね。佐々見の具合は」 と、ここでも同じようなことを訊かれる。 「もう、大丈夫のようです」 「回復が早いからな。さすがにスポーツで鍛えただけのことはある。本人さえよければ来週からでも出勤させるか」 「喜ぶと思います。もう、自宅でじっとしているのには飽きたようですから」 ふふんと鼻で笑ったクラントンは、麗子が運んできたコーヒーを美緒に勧めて自分も口に運んだ。 「ところで、トルネードネットの件だが」 「はい。営業のほうから何か言って来たんでしょうか」 「来た。いつまで待たせるんだとヤスが怒鳴り込んできた」 ヤスとは、上山康則のことで東京支社の営業部長をしている。 POCIは、いろいろな国の人間が働いているが、営業部の要は日本人である。 「その件につきましては」 と言いかけた美緒をクラントンが大きな手を広げて制した。 「わかっている。関係者が死亡したり、うちの社員まで襲われた。背後に犯罪の匂いがぷんぷんしている。一年だろうが十年だろうがはっきりするまでは金なんか払えるかと追い返した」 それを聞いて、美緒はほっとした。 「まあ、彼には彼の立場があるからね」 上山にも同情をしてみせる。 仕事の上では厳しいことを言っていても、仲が悪い訳ではない。 組織的には、東京支社は極東統合支社の下部組織に当たるが、普段はジョージ、ヤスとファーストネームで呼び合う仲である。 「こうなったら、捜査の進展を見ながら腰を据えてかかるしかないだろう。実は、呼んだのはそのことではないんだ」 クラントンは、立ち上がるとデスクの上から一冊のファイルを持って戻ってきた。 「札幌から上がってきた報告書だ。読んでみたまえ」 「はい」 それは、札幌の営業所から送られてきた保険金支払い請求の報告書である。 ざっと目を通した美緒は、驚いたような顔でクラントンを見た。 「これは・・・」 「どこかで聞いたような話だろう」 笑みを浮かべて美緒を見た。 |