第14章
悲恋伝説の岬

(1)

 盛岡から札幌へ行く飛行機は、花巻空港から一日に二便が運行されている。
 東京デイリーニュース盛岡支局の若い記者は、
「札幌便なんて、ガラガラですよ」
と言いながら電話をしてくれた。
 美緒から電話があった翌朝のことである。
「えっ、欠航?」
 受話器を耳に当てたまま裕也の顔を見る。
「そうですか。わかりました」
 返事をして電話を切った。
「駄目ですか」
「雪で飛行機が飛んで来ないそうです。まだ、降り続いているそうですから夕方の便も、どうなるかわからないらしいです」
「そうすると、今日中に行くことは無理かな」
「ちょっと待って下さいよ」
 記者は、乱雑なデスクの上を探して小型の時刻表を引っ張り出した。
 それを、ぱらぱらとめくって調べている。
「こっちは、それほど降ってはいないけどなあ」
 窓の外を眺めながら裕也は呟いた。
「ありましたよ」
 声を上げた記者が時計を見た。
「まだ、間に合いそうです」
 時刻表を抱えて裕也の元へやってきた。
「盛岡から新幹線の『はやて』で、八戸まで行って下さい。すると、十二時十六分発の『スーパー白鳥』に乗れます」
「それで、札幌まで行けるの?」
「いえ、『スーパー白鳥』函館が終点ですから、そこから・・・」
 時刻表の後ろのほうのボールペンをはさんだ箇所を開く。
「ええと・・・。十五時二十三分発の北斗十五号に乗ると、十八時五十九分に札幌に到着します」
「ふう・・・」
と裕也は溜め息をついた。
「七時間半ほどの長旅か」
「飛行機が飛べば、一時間足らずで千歳には着きますけどね。どうされます?」
「いや、飛ぶかどうかわからない飛行機を待っても仕方がない。それで行きましょう」
「そうですね。予報では内陸地方の雪はこれから強くなるらしいです」
「よし、決めた。津軽海峡を潜って行こう」
「じゃあ、駅までお送りします」
 本社のキャップに札幌へ向かう旨を簡単に報告してから、裕也は若い記者に送られて盛岡駅に向かった。
「しかし、先輩は忙しいですね。遊軍ってそんなものですか」
 運転をしながら訊いてくる。
 遊軍記者というのは、簡単に言えば記者クラブに属さない記者である。
 その代わりに、何か大きな事件が起きるとチームが編成されて、その一員ともなる。
 従って、なんでもこなさなければならない。
 束縛されないので、ぶらぶらと遊んでいるように見えるが、自由である反面で全て自分の責任と判断で取材をしなければならない。
「奥さんは大変ですね」
「お陰で、嫁の来てがない」
 ちらっと、亜理沙のことを考えながら裕也が言う。
「なんだ、まだ独身なんですか。実は本社の遊軍へ憧れていたんですが、ここは考えどころだな」
「いつでも、歓迎するよ」
 そんなことを話しているうちに、車は盛岡駅に到着した。
「じゃあ、お気をつけて」
 その言葉に送られて、車を降りて駅舎の中へ入る。
 時計を見ると、『はやて九号』の発車には、十五分ほど時間があるようだった。
 緑の窓口で札幌までの乗車券と、それぞれの特急券を買う。
 車を降りたのが西口だったので、新幹線に乗るには九番線から二番線までの在来線のホームを越えて行くことになる。
 そこで、ようやく新幹線の改札に行き当たり、切符を提示していると二、三人向こうを黒いレザーコートを着た男が歩いていた。
 がっしりした体格の初老の男である。
 裕也は小走りに追いかけて行って、その男の肩を叩いた。
「龍波さん」
 男が振り向いた。
「ああ、那珂川さんですか」
 その時に、『はやて九号』が間もなく到着すると案内放送が伝えた。
「どうやら、行く先は一緒のようですね」
と言う裕也に、龍波は少し照れたように笑った。

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