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第14章
悲恋伝説の岬
(2)
| 盛岡で大半の乗客が降りて、裕也と龍波は自由席でも並んで座ることが出来た。 「なんだか、那珂川さんと一緒になるような気がしていましたよ」 龍波は、売店で買ってきたらしい缶ビールをバッグから取り出し、そのうちの一本を裕也に渡しながら言った。 「これはどうも」 軽く頭を下げて、それを受け取る。 「面白い情報でも掴みましたか?」 「盛岡に、昔の知り合いがいましてね。いや、いまは足を洗って小さな飲み屋をやっているんですが、これの話によると仲井はどうやら札幌へ飛ぶ予定だったらしいです。ただ、六本木で佐々見さんを刺した件で手配されていることは承知していて、うっかり空港などに顔は出せない。そこで、青森辺りで漁船かなにかをチャーターして行くつもりだったようです」 「そんな手づるが仲井にあったんですか」 貰った缶ビールを開けながら裕也が訊く。 「仲井にはありません」 断定的に言ったところは、車内販売がやってきて、龍波が呼び止めたので話が中断した。 袋に入った笹かまぼことピーナッツを買うと、それを開けてテーブルの上に置いた。 笹かまぼこは、その形状から、元は『木の葉かまぼこ』とか『手のひらかまぼこ』、『平かまぼこ』、或いは『ベロかまぼこ』などと呼ばれていた。 その後、旧仙台藩主伊達家の家紋『竹に雀』の笹に因んで『笹かまぼこ』と呼ぶようになってから、旧仙台藩地域で次第に名称が統一されていったという。 現在では『笹かま』と省略されて呼ばれてもいる。 「どうぞ」 と裕也に勧める。 「仲井は、盛岡には神侠会の筋で知り合いがいますが、青森には伝手がありません。ただ、知り合いの話によると、どうやらバックにいる人間が手配してくれていて、その連絡を待っていたらしいです」 「バックにいる人間ねえ。それが誰だかはわからない訳ですね」 「わかりません。この情報も、知り合いの耳に入ってきた話で、直接に確かめた訳ではありませんからね。ただ、船は北海道で手配するということらしいので、そちらにいることは間違いないと私は睨んでいますよ」 そこまで言うと、喉を鳴らしてビールを飲んだ。 「那珂川さんは、どうして札幌へ」 「ああ、実は美緒さんから電話があったんです。彼女は、いま札幌へ来ているらしいのです」 「ほう、あのお嬢さんが」 感心したように言う。 「大通公園で変死体が見つかって、その状態が横浜で見つかった成瀬慎次の状況と酷似しているらしいのです。それで、念のために神奈川県警の山鹿警部に連絡して欲しいという依頼があったのです」 「なるほど。あのお嬢さんは鋭いひとですからね」 「なんでも、道警の警部と偶然に出会って、その警部からも連絡しておいたほうがいいと勧められたそうですよ」 「まさか、札幌で起きた事件と横浜の事件が関連があるのではないでしょうね」 「現状ではなんとも言えませんが、もしあったら大事件ですよ」 その言葉に、龍波は黙って頷いた。 「それにしても、龍波さんは札幌にもお知り合いがいらっしゃるんですか」 なんのコネもなく龍波が札幌へ行くとも思えなかった。 「札幌にはいません。ただ、旭川にいます」 「旭川ですか」 「これも、昔の知り合いでしてね。いまは弁護士事務所の手伝いがなにかしているらしいです」 「弁護士事務所ですか。失礼だけど、組関係にいたひとにしては珍しいですね」 龍波は苦笑した。 「まったくです。雇った弁護士さんも、変わり者なんでしょう。ただ、彼がいた組の組長は真っ当なヤクザで、そこにいた幹部のひとりが、ヤミ金などに手を出して、それの摘発に協力して足を洗ったということですから、彼自身も相当に変わっていますよ。その辺を買われたのではないでしょうかね」 「なるほど、龍波さんと同じようなひとがいらっしゃる訳だ」 「私も変わり者ですか」 「もちろんですよ。なんの得もないのに、手弁当で事件に首を突っ込むひとは珍しいです」 裕也に言われて苦笑した。 「そこが龍波さんのいいところだし、我々も大いに助かっていますがね」 そんな話をしているうちに、『はやて』は終着の八戸に着いた。 ここまでは、三十分少々の旅だがこれからが長い。 八戸で在来線の特急『スーパー白鳥』に乗り換えて津軽海峡を潜り、函館で更に特急の『北斗』に乗り換える。 およそ七時間近い列車の旅が待っていた。 裕也は、八戸駅で海鮮幕の内という弁当を買ってひとつを龍波に渡した。 ビールのお礼のつもりである。 |