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第14章
悲恋伝説の岬
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| 翌日、美緒と裕也は札幌駅から電車に乗って小樽まで行った。 小樽で乗り換えて、函館本線倶知安行きに乗り換えて余市まで行く。 ここからは車で行くしか方法はなく、タクシーを探すつもりであった。 余市町は、ウィスキーのコマーシャルでその名前を知られているが、昔はニシン漁で栄えた町である。 積丹半島の付け根に位置し、町の資料によれば、人口は二万二千人で総面積は百四十・六平方キロ。 この面積は、東京都の世田谷、大田、品川の三区を合わせた面積に匹敵するという。 駅前でタクシーの運転手に訊くと、簡単にドアを開けてくれた。 「行けますか」 「行けますよ。東京の方ですか」 と訊いてくる。 「積丹半島というと、都会のひとは冬には陸の孤島のようになると思っておられるらしいけど、ひとも住んでいるし、役場だってありますよ。それに道はトンネルが多いですからね。美国までならバスだって通っています」 と笑われた。 余市川を渡ると、警察の建物が見えてきた。 「すみません。ちょっと警察へ寄って下さい」 「警察ですか」 怪訝な顔をしながら、運転手は車を警察の前に止めた。 「確か、積丹の管轄はここの警察でしたよね」 と、裕也が運転手に確認をした。 「そうです。積丹には駐在所しかありませんから」 「じゃあ、ちょっと待っていて下さい」 そう言うと、ひとりだけで降りて警察署の中へ入って行った。 「お客さん、警察関係の方ですか」 振り向いて美緒に訊く。 「いえ、あのひとは新聞記者です」 「ああ、なるほど」 運転手が納得したように頷いた。 「そう言えば、積丹で女のひとの遺体が見つかったとか言ってたな」 独り言のように呟いている。 しばらく待っていると、体を丸めて裕也が戻ってきた。 「寒い。さすがに半端ではないですね」 ぶるっと体を震わせて車の中に飛び込んできた。 「いや、美緒さんの知り合いの警部がいないかと思って訊いてみたんですが現場に行っているそうです」 そう伝えてから、再び車を出すように運転手に指示をした。 「積丹の伝説をご存知ですか」 交通量も少なく、話し好きなのか運転手が前を向いたまま話しかけてきた。 「有名な女郎子岩という岩が海中に立っています。これは、源頼朝の軍勢に追われた義経が、蝦夷地、つまり北海道に逃れてきた。そこでアイヌの酋長の娘であるシララと恋に落ちたんだそうです。しかし、そこにも追っ手が迫ってきて更に奥地へ逃げることになった。義経は月夜の夜に部下と一緒に船で別れも告げずに去ってしまいます。それを知ったシララは絶壁の上から泣き叫んでいましたが、遠く離れて行く船を見て悲しみのあまり海に身を投げてしまします。その化身が女郎子岩になったと伝えられています」 「悲しいお話ですね」 美緒は、日本海の荒波に耐えながら立ちつくす岩の写真を見たことがある。 「義経伝説に関しては、他にもいろいろあります」 と運転手は笑った。 「同じ積丹町にある神威岬をご存知ですか」 「ええ、名前だけは」 「ここにも同じような話があるんです。奥州から逃げてきた義経が、日高の酋長のもとに身を寄せていましたが、その娘のチャレンカが義経を強く慕うようになりました。ところが、義経は北へ向かって旅立つことになり、その後を追ってチャレンカも神威岬までたどり着きました。ところが、義経たちは船で出てしまっていて、チャレンカが大声で叫んでも日本海の強風にかき消されて届きません。悲しみにくれたチャレンカは、もし和人の船が、女性を乗せて通り過ぎたら、必ず転覆させてやるという恨みの言葉を残して海に身を投げてしまいました。それが岩と化したと言い伝えられているのが神威岩です。それ以降、女性を乗せた船がこの沖を過ぎようとすると必ず転覆したと言われ、神威岩は長い間女人禁制の地となっていましたよ」 神威岩は、神威岬から沖に向かって点々と連なっている岩場で、その中ほどに起立している岩である。 これも、なにかの写真で見たことがあった。 「義経ってひとは、随分あちこちで女性を泣かしてきたひとですねえ」 と傍らから裕也が茶化すように言った。 「北海道、特に道南には多いですね。義経とアイヌ娘の悲恋物語なども多く存在します。まともに信じると、仰るように義経というひとは極めて浮気性だったことになりますが、これも内地の人間が入って来た後で作られた話か、或いは元々あった伝説を改作して義経に置き換えて作られたものと私は思いますよ」 運転手は、なかなか冷静な解説をしてくれたのを、美緒は少し残念な気持ちで聞いていた。 |