第15章
再会

(1)

「まあ、ここは寒いですから、中へ入られませんか」
と、昆野が駐在所の中へ誘った。
「でも、ご主人も外出中のようですし、奥さまにご迷惑では」
「慣れていますよ。駐在所などというものは、家族ぐるみで勤務しているようなものでしてね。奥さんも連絡係を務めたりして大変なんですよ」
 言いながら、ふたりを促すように手を差し出し、先に立ってドアを開けた。
「奥さん、邪魔しますよ」
「警部さん、さあどうぞ火のそばへ」
と言ってから、続いて入って来たふたりを見て「おや?」という顔をした。
 それを察したように昆野は
「おふたりとは知り合いでしてね」
「そうですか。お茶でもお入れしましょう」
 気軽に返事をして、奥へと引っ込んで行った。
「どうぞ、おかけ下さい」
 警部の知り合いと言われたからか、先に入っていた若い刑事が立てかけてあったパイプ椅子をがちゃがちゃと引っ張り出してきて勧めてくれる。
「すみません」
 礼を言って美緒たちは腰を下ろした。
「仏さんは、上川奈美。これは持ち物に書かれていた名前等で確認しました。現場には持っていたバッグなどが綺麗に揃えて置かれていましたし、前日の夕方に遊歩道へ向かう道をひとりで歩いているのを地元の漁師が見かけています。気になって声をかけたそうですが、酔い覚ましに歩いているだけだと言われて、急いでもいたので気を付けるようにと言って別れたそうです」
「じゃあ、奈美さんがひとりだけで」
「そうです。こんなことなら無理にでも引き留めるのだったと後悔していました」
 その寂しい情景を想像して、美緒は涙を浮かべた。
 そこへ、駐在所の妻が盆に茶碗を三つ載せて出てきた。
「番茶ですけど」
「すみません。お世話をおかけします」
 礼を言ってから、ひとつを裕也に渡す。
「そんな状況などから見て自殺と見て間違いないでしょう。外傷もありましたが、飛び降りたときに崖に体をぶっつけての傷と見て間違いはないと思われます」
「遺書はありましたか」
 裕也が訊いた。
「いや、現場では発見されませんでした」
「どうして自殺なんか」
 ぽつりと美緒が呟く。
 年齢が近いだけに、他人とはいえ若くして自ら命を絶った奈美が不憫でならなかった。
「それはまだわかっていませんが、或いは夫の上川孝史さんが亡くなられたことに悲観してのことと我々は考えています」
「そうかも知れませんね」
 頷いた美緒の声は沈んでいた。
「まあ、現状でわかっているのは、そんなところです」
「ありがとうございました」
 わざわざ状況を教えてくれたことに美緒は礼を言った。
「どうされますか? お泊まりになるのでしたら駐在所で探させますが。もっとも民宿のようなものしかありませんが」
 昆野が親切に言ってくれた。
「いえ、タクシーも待って貰っていますので、札幌へ帰ります」
と裕也が言い、美緒も
「いつか、お花でもお供えしに来たいと思います」
と言った。
「そうですか。じゃあ、また札幌でお会いするかも知れませんが、お気を付けて」
 昆野に送られて駐在所を出ると、タクシーの中で運転手が眠っていた。
 窓ガラスをこつこつと叩くと、慌てて目を覚ました。
「こりゃどうも、失礼しました」
とドアを開けてくれる。
「長くお待たせしてすみませんでした」
「いいえ、いい骨休みをさせて頂きましたよ。御用はお済みになりましたか」
「ええ、今日のところは札幌へ帰ります」
「かしこまりました」
 車が動き出して外を見ると、駐在所の表に昆野が立っていて軽く手を上げた。
 美緒と裕也は、それに会釈を返して美国をあとにした。
 フロントガラスに飛んできてぶつかる雪の量が、また少し増えてきたようである。

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